胃ろうを造ったあと、
3食を口から食べるまで
誤嚥性肺炎を繰り返された方と過ごした1,065日間の記録(現在も継続中)
「肺炎で入退院を繰り返しています。次はもう危ないと言われました」
「胃ろうを造りました。もう口からは無理だと説明されています」
「ソフト食と刻み食しか出せない施設だと言われ、変わり先を探しています」
胃ろう(PEG)は、しばしば「最後の手段」として説明されます。造るかどうかで悩み、決断し、造設が終わると、話はそこで終わったことになります。
けれど、造ったあとの時間のほうが、ずっと長いのです。
この方は、誤嚥性肺炎を繰り返した末に嚥下機能の低下を指摘され、胃ろうを造設して当施設に来られました。紹介元からの情報には、飲み込みの機能低下が主な病状であること、食事はペースト食であること、たんの吸引が必要であること、身のまわりのことはすべて介助であることが記されていました。ご家族は、それまでの施設では食事の形態が合わず、変わり先をご自身で探しておられました。
あれから1,065日が経ちました。いまこの方は、朝・昼・夕の3食を口から召し上がり、とろみをつけない食事をむせずに食べ、歩行器で歩き、トイレはご自身で済ませておられます。この間、誤嚥性肺炎による救急搬送も再入院も、一度もありません。
本報告は当施設が公開している実践報告の第9報です。胃ろうを「造るかどうか」で迷っておられる方は、第8報「「早く、たいようへ帰りたい」(胃ろうを選ぶまでの意思決定支援)」もあわせてご覧ください。
来られたときのこと
80歳代の女性。ご家族(娘さま2名)が主に関わっておられます。要介護4。
前の年の秋、飲み込みの機能が落ちたことによる肺炎で入院されました。紹介元からいただいた情報には、次のように記されていました。
嚥下機能低下が主病態でありますが、ゴロ音無くとも吸引対応することで発熱無く経過できています。
食事摂取はペースト食を摂取、リハビリに関しても立位訓練まで実施できております。
看護要約には、こうも書かれていました。
元々の施設がソフト食と刻みしか対応しておらず施設を変えるか考えていた。自分で施設を探している。
当施設に来られてすぐ、飲み込みの機能はさらに落ち、経口摂取だけでは栄養が保てないと判断されました。ご本人・ご家族・主治医が相談のうえ、いったん病院に戻って胃ろう(PEG)を造設。造設後、当施設に戻って来られました。
つまりこの方は、「胃ろうを造ってから」当施設での生活が始まった方です。来られた当初の状態を、記録から拾います。
| 栄養 | 胃ろうからの栄養剤が中心。経口は1日1食のみ |
|---|---|
| 食事形態 | ムース食(かまずに飲み込める形態)+水分にとろみ |
| たんの吸引 | 必要。実施あり |
| 排泄 | 夜間はおむつ。日中もパッド内の失禁あり |
| 移動 | 車椅子。移乗は介助 |
| 発熱 | 1か月に1回程度の発熱を繰り返す |
| 体重 | 32kg台 |
1,065日の記録
数字で見るケアの実際
| 期間 | 1,065日(現在も継続中) |
|---|---|
| 記録件数 | 17,399件(記録の残る1,035日分/1日あたり平均16.8件) |
| 記述記録(申し送り・看護記録) | 3,366件 |
| 記録を書いた職員 | 51名 |
| 入浴 | 316日 |
| リハビリ・体操の実施 | 315日 |
| 医師との連携(往診・報告・指示) | 47日 |
| たんの吸引を行った日 | 10日(すべて最初の3か月間。以降0日) |
| 37.5℃以上の発熱があった日 | 7日(すべて最初の4か月間。以降0日) |
| 救急搬送・再入院 | 0件 |
体重は、いちばん落ちた30.0kgから、45kg台まで戻られました。
2時間ごとの声かけから、トイレの自立へ
来られて2週間ほど経った日の記録です。訪室すると、ご自分で着替えようとしておられました。失禁があり、シーツまで濡れていました。少し暗い表情をしておられたと記録にあります。
その日、職員はこう書いています。「清潔の観点、自尊心の低下を防ぐためにも定期的にトイレ誘導必要か」。
ここから、2時間ごとの声かけが始まりました。ナースコールは押されません。押さずに我慢しておられました。誘導すると、たいてい排尿があります。それを、来る日も来る日も続けました。半年後の記録には、こうあります。
呼ぼうかな、どうしようかなと思って考えたけど一人で行けるから呼ばなかった
そして現在。記録にはこう書かれています。「トイレ動作など自立して実施できており」。
「年末年始帰りたい」
来られてひと月半ほどの頃、ご本人とご家族から、年末年始に自宅へ帰りたいというご希望がありました。私たちは、その場では返事をしていません。カンファレンスの記録が残っています。
本人様、家族様の意向尊重したいが課題も多い印象。現在発熱なく経過されているが一か月に一回程度発熱しており年末に発熱した場合、救急搬送なる旨説明。また、以前の看多機でも週末に帰宅し経口摂取行い誤嚥性肺炎繰り返していた経緯もあるため家族への再指導も必要。
帰りたいという気持ちは、この方が回復に向かううえで最も大切な燃料でした。同時に、その週末の帰宅こそが、それまで肺炎を繰り返してきた原因でもありました。
このときは、主治医に相談したうえで見送っています。かわりに、翌年の春から、ご家族への胃ろうからの注入手技の指導日程を組み始めました。「帰らせない」ではなく、「帰れる状態を作る」ほうに時間を使う、という判断です。
カメラで飲み込みを診てもらった日
来られて5か月目。往診の主治医が、細いカメラを使って飲み込みの様子を直接確認してくださいました(嚥下内視鏡検査)。
とろみのない水、いつものとろみをつけた水、ゼリーの3種類を、ティースプーン7分目ほどの量で飲み込んでいただきます。結果は、とろみなしの水は誤嚥あり。とろみ水は、飲み込みを3回繰り返せばほぼ飲み込める。ゼリーは1回できれいに飲み込める。
主治医の指示は、その場で出ました。
ムース食は安全だろう→本日昼から昼1食でムース食再開する。
今後は、評価しながらムース食で2食、3食と増やしていくことを目指す。
その日の昼、久しぶりの食事が出ました。
おいしい
笑顔が見られた、と記録にあります。
久しぶりだったせいか、食べるペースがとても速く、10分で半分を食べてしまわれました。職員はタイマーを置き、テレビを見ながら休み休み食べていただくようお願いしています。この日から、食事の前に必ず口の体操をすることが日課になりました。かるた遊びのときは、「声を出して喉を鍛えましょう」と読み手をお願いしました。もともと合唱部でソプラノを歌っておられた方です。ほかの入居者さまと一緒に、歌もよく歌われました。
「良くなったって自分でもわかる」
食べる量が増えると、体重が戻ります。体重が戻ると、力が出ます。力が出ると、リハビリが進みます。理学療法士の記録に残っている、ご本人の言葉を時系列で並べます。
(4月)歩きやすい
(6月)良くなったって自分でもわかる
(9月)家はバリアフリーになってるから歩行器も使えると思う
(11月)昨日1人で3周歩いたのよ
(11月)右足がしっかりしたね、自分でもわかる
車椅子から、前腕で支えるタイプの歩行器へ。日中の居室内の移動は自由になり、フロアまで歩いて出て来られるようになりました。この頃の記録には、「歩行しながら他の利用者に手を振るなどの余裕もみえてきている」とあります。
同じ年の10月には、外へ出ています。
良い風ですね。見て、この枯れ葉。秋ですね。
「おかげ様で食べれるようになりました」
昼だけだった食事が、夕食に広がりました。栄養剤の量が減りました。
ラコール減ったからお腹すくよ
空腹感は慣れてきた。体重が40kg台になるまで中々やね。食事は美味しいです
食べれるものが増えるのは嬉しいね、娘に言います
そして、来られて1年3か月目の1月18日。朝食が始まりました。これで3食すべてが口からの食事になり、胃ろうからの栄養剤は終了しています。その1週間後の記録に、ご本人の言葉があります。
注入がなくなったからね、どうなったかしら。減ってる気がするわ〜
減っていませんでした。体重はその後も増え続けています。さらに半年後の看護記録には、こうあります。
S)おかげ様で食べれるようになりました。
O)食事全量摂取。とろみ付けずムセ込みなく摂取できている。
とろみも、外れました。
現在、胃ろうは残しています。ただし使っているのは、お薬と水分だけです。ご本人が自発的に飲む水分の量が少なく、そこだけ無理をすると誤嚥のリスクが上がるためです。胃ろうは「食べられないから入れる管」ではなく、「安全に食べ続けるための保険」として残っています。
いま、この方の一日はこんなふうです。朝5時に起きてサッカーを観る日があります。機械浴で入浴し、着替えはご自分でされます。午後は歩行器や杖で歩く練習をします。月に1〜2回、娘さまと外出されます。トイレはご自分で行かれます。
この事例からお伝えしたいこと
1. 胃ろうを造設された方の受け入れが可能です
栄養剤の注入、水分・内服薬の注入、胃ろう周囲のスキンケア(肉芽の処置を含む)を、看護職が日常的に行っています。造設直後の状態から、注入量を段階的に減らしていく調整まで対応します。ご状態により対応可否は変わりますので、まずはご相談ください。
2. 「もう口からは無理」と説明された方でも、評価から始めます
飲み込みの機能は、状態が変われば変わります。この方の場合、往診医による直接の評価を経て、昼1食のムース食から再開し、1年3か月かけて3食に戻りました。大切なのは、再開の可否を施設の都合で決めないことです。必ず主治医の評価と指示のもとで進めます。
3. 食事形態を理由に、お断りしません
ムース食、ペースト食、きざみ食、とろみの調整に対応しています。また、状態の改善にあわせて形態を上げていく方向でも、悪化にあわせて下げる方向でも、その都度対応します。
4. たんの吸引が必要な方を受け入れます
この方も当初は吸引が必要でした。看護職が24時間対応できる体制を取っています。ただし吸引の頻度によって夜間の対応可否が変わりますので、ご相談時に頻度をお聞かせください。
5. 回復には、年単位の時間がかかることがあります
この方が3食を口から食べられるようになるまで、1年3か月かかりました。その間、体重が落ちた時期も、食欲が出ない時期も、点滴で立て直した時期もありました。短期間で結果を出そうとすると、誤嚥性肺炎を繰り返す元の状態に戻ります。時間をかけられる場所であることが、この事例では決定的でした。
6. 「帰りたい」というご希望は、否定せずに預かります
この方の「年末年始帰りたい」というご希望に、私たちはその場で応えられませんでした。かわりに、ご家族への注入手技の指導を始め、住環境の確認を進め、リハビリの目標を「自宅で歩けること」に置き直しました。ご希望を断るのではなく、実現できる条件を一緒に作ることが、私たちの仕事だと考えています。
医療機関のご担当者様へ
当法人では、以下の医療的ケアを要する方の受け入れをご相談いただけます。
- 胃ろう(PEG)・経管栄養の管理、注入、胃ろう周囲のスキンケア
- たんの吸引(口腔・鼻腔)
- 点滴・皮下輸液(主治医の指示による)
- 在宅酸素療法
- インスリン注射・血糖測定
- 褥瘡の処置
- 嚥下機能の低下がある方の食事形態調整・誤嚥予防の口腔体操
- 看取り
いずれも、主治医の指示のもとで実施します。夜間帯の対応可否は処置の頻度により異なりますので、ご紹介時に頻度と手技をお知らせください。退院前カンファレンスへの参加、退院当日の受け入れについてもご相談に応じます。
よくあるご質問
| 胃ろうを造ってしまったら、もう口から食べることはできないのでしょうか。 | 一概には申し上げられません。飲み込みの機能は、体力や全身状態によって変わります。本事例では、主治医による飲み込みの評価を受けたうえで、少量の1食から再開し、時間をかけて3食に戻りました。まずは主治医にご相談いただき、あわせて当施設にもお声がけください。ご状態によります。 |
|---|---|
| 誤嚥性肺炎を何度も繰り返しています。受け入れてもらえますか。 | ご相談ください。当施設では看護職が日常的に関わり、食事の形態・姿勢・時間・食後の座位保持まで含めて調整します。ただし、肺炎の再発を完全に防ぐことをお約束するものではありません。空床状況とご状態により、受け入れの可否は変わります。 |
| たんの吸引が必要ですが、夜間も対応してもらえますか。 | 対応しています。ただし吸引の頻度によって夜間帯の体制が変わりますので、ご相談時に1日あたりの回数と時間帯をお知らせください。ご状態によっては、より医療体制の厚い場所をご案内する場合があります。 |
| 食事形態が合わず、前の施設を出ることになりました。対応できる形態を教えてください。 | ムース食、ペースト食、きざみ食、とろみ調整に対応しています。状態の変化にあわせて形態を上げ下げすることもできます。実際にお出しできる献立はその時々で異なりますので、一度ご相談ください。 |
| どのくらいの期間で良くなりますか。 | お一人おひとり大きく異なります。本事例では、3食を口から食べられるようになるまで1年3か月かかりました。改善しない場合も、状態が下がっていく場合もあります。期間をお約束することはできません。 |
| 費用はどのくらいかかりますか。 | 介護度、ご利用の組み合わせ(通い・訪問・泊まり)、食費・居住費などにより異なります。お見積りをお出しできますので、お問い合わせフォームまたはお電話でご相談ください。 |
本記事について
本記事は、当施設における一事例の記録に基づく報告です。記載内容は個々の利用者様の状態や経過を保証するものではありません。医療的処置および投薬はすべて、主治医の判断と指示のもとで行われたものです。経口摂取の中止・再開および食事形態の変更は、いずれも主治医による嚥下機能の評価と指示のもとで行われたものです。氏名・生年月日・住所その他の個人が特定される情報はすべて削除し、ご本人およびご家族の同意を得たうえで公開しています。
発行:有限会社たいよう 看多機たいよう堺東
最終更新:2026年9月3日