点滴の血管が取れないと言われて|皮下点滴で過ごした最期の76日
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「点滴を入れる血管が、
もうありません」

皮下点滴で過ごした最期の382日 ― 90歳代の方と過ごした382日間の記録

たいよう堺東(大阪府堺市堺区) / 公表 2026年9月3日

「母の血管がもう取れないと言われました。点滴も抗生剤も入れられないそうです」
「療養病棟に移るしかない、と説明されています」
「もって数日から1週間、と言われました」

点滴は、いつでもできるものだと思われています。実際には、高齢で長く食べられていない方の血管は細く脆くなり、あるとき「もう入れる場所がない」という段階が来ます。

そこから先の選択肢は、多くありません。首や腕の太い血管から管を入れる(中心静脈カテーテル)か、それができなければ、点滴そのものを諦めるか。前者を選べば、感染のリスクと引き換えになります。

この方は、その両方を経験されました。カテーテルを入れ、感染で抜き、また入れ、また感染し、最後は末梢の血管も取れなくなりました。ご家族は、そのたびに「できることはしたい」と選び続けました。

そして最後に選ばれたのが、病院の療養病棟ではなく、当施設でした。「予後は数日から1週間以内となる可能性がある」と説明を受けた退院でした。この記事は、そこから382日間の記録です。

本報告は当施設が公開している実践報告の第10報です。点滴を続けるか・やめるかの判断については、第5報「点滴を始める判断、やめる決断(264日間の記録)」もあわせてご覧ください。

382関わりの期間
4,619介護・看護の記録
382皮下点滴で過ごされた最期

来られたときのこと

90歳代の女性。娘さま2人(と、そのご家族)が代わる代わる関わっておられました。要介護5。たいよう堺東にご入居いただき、看護小規模多機能型居宅介護のサービスをご利用いただきました。

前の年の春、別のサービス付き高齢者向け住宅にお住まいのときに誤嚥性肺炎で救急搬送され、3か月余り入院されました。退院時に病院からいただいた書類には、次のように記されていました。

食事飲み込みの機能低下。ゼリー状より硬いものは摂取困難
栄養腕から入れた中心静脈カテーテル(PICC)で高カロリーの点滴
排泄尿の管(膀胱留置カテーテル)を留置。便は全介助
移動身のまわりのことはすべて介助。リクライニング式の車椅子
意思疎通「認知機能低下あり疎通困難である」

診療情報提供書には、ご家族の意向がこう書かれていました。

療養病院への転院も選択肢ですが、家族は施設で過ごされることを希望されました。
最終的には施設での看取りを希望されています。

入居初日から、看取りの方針が共有された状態で始まった1年でした。

382日の記録

数字で見るケアの実際

期間382日
記録件数4,619件(記録の残る244日分/1日あたり平均18.9件)
記述記録(申し送り・看護記録)1,142件
記録を書いた職員20名
入浴382日(機械浴・ストレッチャー浴を含む)
点滴の管理を行った日130日
口腔ケアの記載がある日66日
医師との連携(往診・報告・指示)31日
ご家族との面会・やりとりの記載52日
発語・会話・笑顔が記録された日112日
救急搬送・再入院入院3回(うち1回は予定入院、救急搬送は1回)。最後にお戻りになってからの382日間は0件

「意思疎通できない」と書かれていた方

病院の書類には、意思疎通も意思決定もできない、と記されていました。当施設に来られてから記録に残っている言葉を、いくつか並べます。

もう、いりません/もう、食べません(食事を勧めた職員に、はっきりと)
おなかすいた
うどん2玉、1玉やったら足りへん
すみません、お兄さん。何屋さんですか、お寿司下さい、うどん下さい
あんたがいてくれててよかった
ありがとう

最後の言葉は、記録の残る244日のうち32日に出てきます。おそらく、書かれていない日のほうがずっと多いはずです。

意思疎通ができない方だったのではありません。ベッドの上で24時間点滴につながれ、話しかけられる機会が少ない状態では、そう見えていたということだと私たちは考えています。当施設では、覚醒のよい時間帯を見つけて車椅子に移り、フロアに出ていただきました。他の入居者さまと会話が弾んだ日の記録が、いくつも残っています。

カテーテルを、入れて、抜いて、また入れて

来られた当初、栄養はすべて腕から入れた中心静脈カテーテル(PICC)からの点滴でした。看護職が毎日、輸液の交換、ポンプの管理、刺入部の消毒と観察を行いました。

半年ほど経った冬、より長く使える埋め込み式のポート(CVポート)を造る方針となり、3日間の予定入院で造設して戻られました。その2か月後、そのポートが感染を起こしました。抗生剤の治療のため入院となります。

このとき、往診の主治医は再留置のリスクを説明されました。ご家族の希望は、記録にこう残っています。

主治医からは再留置によるリスク説明を頂き、理解は出来るがやはり出来ることはしたい。

結果として、ポートの再造設は行われませんでした。かわりに、口から食べる方針に切り替わりました。入院中の言語聴覚士の評価では、飲み込みそのものには問題がないという結果が出ています。1年前に「ゼリー状より硬いものは摂取困難」と書かれた方が、です。

退院の翌日の記録です。

清拭実施していると徐々に覚醒され「お腹すいてますか、喉は乾いてますか」と聞くと「お腹はいっぱい 喉は乾いている」と明確な主訴あり。

その日の昼、ムース食を一食分、全量召し上がっています。

「点滴を入れる血管が、もうありません」

その1週間後、尿路感染症で発熱され、救急搬送となりました。入院中、病院の主治医から示された選択肢は3つでした。退院前カンファレンスの記録から引きます。

①終末期と受け入れ看取りに向けて施設に帰る。その場合予後週単位と説明受ける
②PICC挿入。感染、閉塞のリスクは理解。再挿入は出来ないと説明されている。この場合は予後月単位(2-3か月)と説明受ける。
③療養病棟入院し定期的にPICCの入れ替え等行う。

そして、退院前カンファレンスで病院の医師から示された見通しは、次のものでした。

末梢ルート確保が極めて困難な状態であり、入院期間中にも皮下輸液に移行する可能性が高い。また経口摂取も出来て1割程度な為、予後は数日〜1週間以内となる可能性がある。

ご家族は、①を選ばれました。看護要約には、その理由が記されています。

療養病院は最期のときを家族と過ごせない可能性があるためそれも家族としてはつらいため希望しない。たいようへの退院を希望したい。

点滴をしない場合もあると理解したうえでの、退院でした。

皮下点滴という方法

お戻りになった当初は、まだ細い末梢の血管から点滴ができていました。しかしそれも数日で入らなくなります。主治医の指示は、記録に残っています。

ターミナル期にあることを家族様が十分に理解した上で、状態に応じ週2〜3回の輸液でドライに傾け、発熱に対して解熱鎮痛薬で対応した看取り

そこから採用したのが、皮下点滴(皮下輸液)でした。お腹の皮膚の下に細い針を留置し、時間をかけてゆっくり水分を入れていく方法です。血管を探して何度も刺す必要がなく、ご本人の負担が小さいという利点があります。

ご家族には、皮下点滴に切り替えたこと、そして今後どういう経過をたどりうるかを、その日のうちにお伝えしました。主治医にも同日中に報告しています。方法が変わったこと自体より、変わったことをその日のうちに共有することのほうが、この時期には大切だと考えています。

その後の記録には、痛みの訴えがなかったことが繰り返し書かれています。

皮下点滴後、吸収まで腫脹あったが、夕方頃には吸収されていた。点滴中痛みの訴えもない。
苦痛の訴えなく穏やかに過ごされている。

「数日から1週間」と言われた期間を、この方は大きく超えていかれました。

お風呂と、色紙と、アイスクリーム

退院の日、娘さま2人が付き添って来られました。その日の記録です。

出来る限り来ようと思いますと。起きたらいろいろと話し出来ていますと娘様。
入浴好きなため可能であればお風呂入れてほしいと希望あり。

主治医と相談のうえ、ストレッチャーで湯船に入っていただく形にしました。382日のうち、入浴の記録は複数回残っています。血圧を測り、その日の状態を見て、入れる日に入りました。

6月、97歳の誕生日の1週間前に、娘さま2人が来られました。

1週間早いがイベントの流れで誕生日色紙お渡しする。

6月の終わり、ご家族が持参されたアイスクリームを、一緒に召し上がっています。

チョコレートが好きだったとの事で、家族さんと一緒に持参のアイス摂取。「美味しい」と笑顔あり。

食事は、もうほとんど摂れない時期でした。それでも、氷のかけらを口に含んで「おいしい」と言われた日の記録が、いくつも残っています。

最後の1週間

7月の終わり、次女さまが来られました。

尿量が減ってきている事や、娘様から見ても反応が乏しいこともあって明日から毎日来ますとのこと。

そのとおりに、毎日来られました。

8月に入って数日、私たちはご家族に「ここ数日でお看取りの可能性」をお伝えしています。ご家族とは、あらかじめ「この数値を下回ったら連絡してほしい」という取り決めをしていました。

その明け方、その数値を下回りました。管理者からご家族に連絡し、ご家族が向かわれる途中で、呼吸が止まりました。再度ご連絡し、「ゆっくり来ていただくように」とお伝えしました。長女さま、次女さまご夫妻が到着され、往診医が到着して死亡確認が行われました。

エンゼルケアは、ご家族と看護師で一緒に行いました。

382日でした。

この事例からお伝えしたいこと

1. 中心静脈カテーテル(PICC・CVポート)を留置したままの受け入れが可能です

輸液の交換、輸液ポンプの管理、刺入部の消毒・観察、ヘパリンロックを看護職が日常的に行っています。感染の兆候が出た場合は主治医に速やかに報告し、必要に応じて医療機関へつなぎます。ご状態により対応可否は変わりますので、まずはご相談ください。

2. 皮下点滴(皮下輸液)に対応しています

末梢の血管が確保できなくなった方に対して、主治医の指示のもとで皮下点滴を実施しています。本事例では、輸液量を状態にあわせて調整しながら、最期まで痛みの訴えのない状態を保つことができました。「点滴が入れられないから病院に行くしかない」とは限りません。

3. 尿の管を留置したまま、繰り返す尿路感染とともに過ごせます

膀胱留置カテーテルの交換と管理、閉塞予防、性状の観察を日常的に行っています。この方は耐性菌を保菌しておられ、尿路感染を繰り返す状態でした。それでも、最後にお戻りになってからの382日間は、発熱による搬送がありませんでした。感染そのものをゼロにできるわけではありませんが、日々の観察と主治医との連携で、搬送に至る前に手を打てる場面は少なくありません。

4. 「予後○週間」は、施設で過ごせない理由にはなりません

本事例では「数日から1週間以内」と説明を受けて退院されました。実際には382日でした。予後の予測は、医学的に誠実に示されたものであり、その適否を論じる意図はありません。ただ、予後が短いという理由だけで、家族と過ごす場所をあきらめる必要はないというのが、私たちがこの事例から申し上げられることです。

5. 「意思疎通できない」と書かれていても、まず話しかけます

この方は、病院の書類では意思疎通も意思決定もできないとされていました。当施設では、記録の残る244日のうち112日に、発語・会話・笑顔が記録されています。覚醒のよい時間を見つけて離床し、フロアに出て、他の方と話す機会をつくること。それだけで見え方が変わることがあります。

6. ご家族が毎日来られる場所であること

この方のご家族は、最後の1週間、毎日来られました。誕生日の色紙を渡し、アイスクリームを一緒に召し上がり、最期はエンゼルケアを一緒に行われました。療養病棟ではなく施設を選ばれた理由が、そこにありました。

医療機関のご担当者様へ

当法人では、以下の医療的ケアを要する方の受け入れをご相談いただけます。

  • 中心静脈カテーテル(PICC・CVポート)の管理、輸液ポンプ管理、刺入部処置
  • 末梢静脈輸液、皮下輸液(皮下点滴)
  • 膀胱留置カテーテルの管理・交換
  • 経管栄養(胃ろう)の管理、たんの吸引
  • 褥瘡・皮膚トラブルの処置
  • 発熱時の初期対応と、主治医への報告・連携
  • 看取り(DNARの同意取得、ご家族への段階的な説明を含む)

いずれも主治医の指示のもとで実施します。夜間帯の対応可否は処置の頻度により異なりますので、ご紹介時に手技と頻度をお知らせください。退院前カンファレンスへの参加をご依頼いただければ、退院後の療養方針のすり合わせから関わります。

よくあるご質問

点滴の血管が取れないと言われました。施設では点滴できないのでしょうか。皮下点滴(皮下輸液)という方法があります。皮膚の下にゆっくり水分を入れる方法で、血管を探して何度も刺す必要がありません。当施設では主治医の指示のもとで実施しています。ただし、どの方法が適切かはご状態によりますので、まずは主治医と当施設の双方にご相談ください。
中心静脈カテーテルやCVポートが入っていても入居できますか。ご相談ください。輸液の管理、刺入部の処置、ポンプ管理を看護職が行っています。ただし感染のリスクがあるため、発熱時の受け入れ先(後方支援病院)を主治医とあらかじめ決めておくことをお願いしています。空床状況とご状態により、受け入れの可否は変わります。
尿の管が入っていて、尿路感染を繰り返しています。受け入れてもらえますか。ご相談ください。カテーテルの管理・交換と、日々の観察を行っています。ただし、感染を起こさないことをお約束するものではありません。発熱時には主治医の指示を仰ぎ、必要と判断されれば医療機関へお願いすることになります。
「もって数日」と言われています。それでも入居できますか。ご相談ください。ご状態と空床状況によります。本事例では退院当日からお受けしていますが、常に即日対応できるとは限りません。まずは病院の相談員(MSW)を通じてお声がけください。退院前カンファレンスに参加させていただくこともできます。
家族は毎日会いに行けますか。泊まることはできますか。面会の時間や宿泊の可否は、その時々の状況によって異なります。看取りの時期については、できる限りご希望に沿えるよう個別にご相談させていただいています。
費用はどのくらいかかりますか。介護度、ご利用の組み合わせ、食費・居住費などにより異なります。なお、入院された場合の契約の扱い(継続か解約か、料金の考え方)についても、あらかじめご説明しています。お見積りをお出しできますので、お問い合わせフォームまたはお電話でご相談ください。

本記事について

本記事は、当施設における一事例の記録に基づく報告です。記載内容は個々の利用者様の状態や経過を保証するものではありません。医療的処置および投薬はすべて、主治医の判断と指示のもとで行われたものです。輸液の実施・方法の変更・量の調整は、いずれもご家族の意向に基づき、主治医の判断と指示のもとで行われたものです。本文中に記載した医療機関の方針および予後の見通しは、当該時点における医学的判断として示されたものであり、その適否を論じる意図はありません。氏名・生年月日・住所その他の個人が特定される情報はすべて削除し、ご遺族の同意を得たうえで公開しています。

ご相談・お問い合わせ

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発行:有限会社たいよう たいよう堺東
最終更新:2026年9月3日