病院ではストレッチャー、
当施設では車椅子で
ご家族が介護を続けられる形を探した47日間の記録
「自宅で見てきたけれど、もう限界かもしれない」
「退院したときには、入院前より動けなくなっていた」
「施設に預けたら、もう自分は何もできなくなるのだろうか」
ご家族から、こうしたお声をいただきます。とくに三つめは、言葉にされないことのほうが多いように思います。
この記事は、ご自宅でご長女の介護を受けていた90歳代の方が、約6週間の入院を経て有料老人ホームたいよう堺東にご入居され、看護小規模多機能型居宅介護のサービスをご利用いただきながら47日間を過ごされた記録です。期間中、救急搬送・再入院は0件でした。
本報告は当施設が公開している実践報告の第3報です。第1報「身寄りのない方・医療依存度の高い方を64日間支えた記録」、第2報「点滴を続けたまま入居し、ご家族に囲まれて最期を迎えた85日間」もあわせてご覧ください。
入居初日、ストレッチャーから車椅子へ
C氏(仮称)は90歳代の女性です。アルツハイマー型認知症と心不全があり、ご自宅でご長女が介護を続けてこられました。
ある時期から意味不明な発言や昼夜逆転がみられるようになり、受診の結果、約6週間の入院となりました。退院時の申し送りは、身のまわりのことはすべて介助が必要、移動はストレッチャー、というものでした。入院中は大きな声を出されたり、点滴の管をご自分で抜いてしまったりすることもあったと伝えられていました。
入居当日、C氏はストレッチャーで施設の車に乗って到着されました。
到着後、職員が状態を確認したところ、膝を立てることができ、腰を持ち上げることもでき、支えがあれば座っていられることが分かりました。そこで、車椅子への移乗を軽い介助で行い、そのまま車椅子で居室へ移動していただきました。
その様子をご覧になったご家族は、涙ぐんでおられました。
この日、大きな声を出される様子も、介護を拒まれる様子もありませんでした。呼びかけには笑顔で応じられ、簡単なやりとりも成立しました。
病院からの申し送りは、治療の場でのご様子を正確に伝えてくださるものです。一方で、療養の場が変われば、できることも変わります。当施設では、いただいた情報をふまえたうえで、入居初日に生活の場での状態を改めて確認することにしています。
47日間の記録
数字で見るケアの実際
| 入居期間 | 47日 |
|---|---|
| 介護・看護記録の件数 | 126件(1日平均2.68件) |
| 関わった職員数 | 21名 |
| 入浴の実施 | 13日 |
| ご家族の面会・介護参加の記録 | 14日 |
| 医師の往診・指示のやりとり | 7日 |
| 救急搬送・再入院 | 0件 |
「おいしくない」から始まった食事の見直し
入居して間もない頃、C氏は提供したムース食を「おいしくない」とおっしゃり、ほとんど召し上がりませんでした。
そこで、きざみ食を少量お出ししたところ「おいしい」と召し上がりました。その日の夕食から食事形態を変更しています。
その後もお食事が進まない日が続きましたが、お話を伺うなかで「魚と豆腐が好き」とおっしゃいました。甘いものはお好きでなく、一般的な栄養補助食品は合いませんでしたが、豆腐味のゼリーは全量召し上がることが分かり、ご家族に購入をお願いしました。
会話のなかでは、若い頃におからを炊いていたこと、蚕から糸を取って着物を織っていたことなどを、明るい表情でお話しになりました。
ご家族が、介護を続けられるように
C氏のご家族は、ほぼ毎日面会に来られていました。
当施設では、ご家族に食事介助を担っていただく形をとりました。来られない時間帯は職員が代わります。ご長女、ご次女、お孫様が、それぞれのご都合のつく時間に来られ、お食事の介助をされていました。
ご自宅で長く介護をされてきたご家族にとって、施設への入居が「介護の終わり」になってしまわないように。私たちはそう考えています。
この関わりは、情報の面でも助けになりました。あるとき発熱についてご長女に報告したところ、「自宅でも熱はよく出していました。いつものことです」と教えていただきました。ご自宅での経過は、ご家族からしか分かりません。
「本人の苦痛がないように」
入居から3週間ほど経った頃、お食事とお水分の量が減り、脱水の兆候がみられました。
看護師はご家族にその状況をお伝えし、今後点滴が必要になる可能性について意向を伺いました。ご家族のお答えは、次のようなものでした。
「私たちの意向は決まっていて、本人の苦痛がないようにということ。点滴をした方が苦痛なのか、しない方が苦痛なのかは私たちには分からない。医師の判断でお願いし、その状態が苦痛そうと思ったら改めて伝えたい」
このお考えを、往診の際に医師へ事前にお伝えしました。医師からは、まず飲む形の補水剤を開始し、それでも脱水が進む場合は心臓のお薬を減らす方針が示され、ご家族にもご説明のうえご了承いただきました。その後、実際に医師から薬剤の中止指示があり、当日中に対応しています。
最期の数日
入居から6週間を過ぎた頃、喉に痰がたまる音が聞かれるようになり、吸引を開始しました。往診の医師からは、ご家族に対して見通しの説明がありました。
亡くなる前日、ご長女、お孫様、そしてひ孫のお子さんたちが面会に来られました。ご自宅から持ってこられたお茶に、とろみを付けて召し上がりました。ひ孫のお子さんたちを見て、笑顔がみられたとご家族から伺っています。
この日、ご長女から「いよいよ近いのかと思います。覚悟はしているつもりですが、やはり落ち着かないですね」とのお言葉があり、看護師がお話を伺いました。
翌日の午前、呼吸の変化を認めた時点でご家族にご連絡し、来ていただきました。ご家族が見守るなか、C氏は静かに息を引き取られました。往診の医師に来ていただき、死亡確認となりました。
この事例からお伝えしたいこと
1. 退院時のご様子が、そのまま続くとは限りません
入院中は治療と安静が優先されるため、身体を動かす機会が限られることがあります。退院時の申し送りはその時点でのご様子を正確に伝えるものであり、生活の場に移られてから変わることもあります。当施設では入居初日に改めて評価を行い、できることを探します。C氏の場合、ストレッチャーでの移動という申し送りに対し、実際には車椅子への移乗が可能でした。
2. 施設に入居しても、ご家族の介護は終わりません
食事介助、お好きなものの差し入れ、お話し相手。ご家族にしかできない関わりがあります。当施設は、ご家族が介護を続けられる形を一緒に考えます。面会時間に制限は設けていません。
3. ご自宅での経過は、ご家族からしか分かりません
「自宅でも熱はよく出していた」という一言が、施設の判断を助けます。ご入居の際は、ご自宅でのご様子をぜひお聞かせください。
よくあるご質問
| 入院して動けなくなった状態でも入居できますか。 | ご入居いただけます。入居時に改めて状態を評価し、できることを確認したうえでケアを組み立てます。 |
|---|---|
| 家族が食事介助に行ってもよいですか。 | はい。面会時間に制限は設けておらず、ご家族による食事介助や身のまわりのお世話にも対応しています。来られない時間帯は職員が代わります。 |
| 入院中に大きな声を出すことがあったと申し送られていますが、受け入れてもらえますか。 | ご相談ください。療養の場が変わることでご様子が変わる方も多くいらっしゃいます。入居時に当施設で改めて状態を確認いたします。 |
| お看取りが近いとき、家族は立ち会えますか。 | 状態の変化を認めた時点でご連絡いたします。面会時間に制限はなく、付き添いにも対応しています。 |
本記事について
本記事は、当施設における一事例の記録に基づく報告です。記載内容は個々の利用者様の状態や経過を保証するものではありません。氏名・生年月日・住所その他の個人が特定される情報はすべて削除し、ご家族の同意を得たうえで公開しています。共通の倫理方針は研究・実践報告に記載しています。
発行:有限会社たいよう たいよう堺東
最終更新:2026年9月2日