身寄りのない方・医療依存度の高い方を
64日間支えた記録
看護小規模多機能型居宅介護における療養継続と看取りの実践報告
「医療的なケアが必要で、受け入れ先が見つからない」
「ご家族がいない方の入居先を探している」
「病院から退院を求められているが、在宅療養は難しい」
医療機関のソーシャルワーカーの方、ご相談者の方から、こうしたお声をいただくことが増えています。
看多機たいよう堺東では、2026年6月から8月にかけて、医療依存度が高く身寄りのないお一人の方をお受けし、64日間の療養を経て施設内でお看取りいたしました。当施設ではこの経過を看護研究として記録・分析し、その要点を看多機の受け入れ体制の実際としてご紹介します。
看護小規模多機能型居宅介護(看多機)とは
看多機は、「通い」「訪問」「泊まり」を一つの事業所が一体的に提供し、看護職員を配置することで医療的ケアに対応できる地域密着型サービスです。
一般的な在宅サービスでは、デイサービス・訪問看護・ショートステイをそれぞれ別の事業所が担当します。看多機はこれを一つのチームが担うため、同じ職員が、日中も夜間も、利用者様の状態を連続して把握できる点が最大の特徴です。
事例の概要
| 年齢・性別 | 90歳代・女性(A氏と表記) |
|---|---|
| 要介護度 | 要介護4 |
| 主な状態 | 脳出血の手術後、左半身麻痺、ADL全介助 |
| 医療的ケア | 膀胱留置カテーテル留置、心不全の内服管理 |
| ご家族 | 配偶者と死別、お子様なし(成年後見人が支援) |
| 入居まで | ご相談から入居まで26日 |
入居時の血液検査では、低栄養(アルブミン 2.6 g/dL)、炎症反応の上昇(CRP 5.93 mg/dL)、電解質異常、心臓への負荷を示す数値が確認されていました。医療機関からのご紹介時の方針はリハビリテーションの継続でしたが、当施設では検査データから療養継続とお看取りの可能性も含めて受け入れを判断しました。
64日間の記録
数字で見るケアの実際
| 入居期間 | 64日 |
|---|---|
| 介護・看護記録の件数 | 157件(1日平均2.45件) |
| 記録の内訳 | 訪問130件/通い13件/泊まり13件 |
| 関わった職員数 | 23名 |
| 入浴の実施 | 16日 |
| 医師の往診(定期・臨時) | 4回 |
| 救急搬送・再入院 | 0件 |
1日あたり平均2.45件という記録の密度は、通い・訪問・泊まりを同一事業所が担う看多機だからこそ実現できるものです。朝の全身状態、昼食時のお食事の進み具合、夜間の睡眠と排泄が、すべて同じ記録の上につながります。
体調の変化を、その日のうちに医師へ
入居後、A氏には全身のむくみが続いていました。第24日、看護師が尿量の減少と体重の推移から心不全の悪化を疑い、情報通信機器を用いて主治医へ報告しました。
同じ日のうちに臨時往診が実施され、ベッドサイドでのエコー検査と採血を経て、利尿薬の投与が開始されました。その後の薬剤の増量・中止の指示も、いずれも当日中に反映されています。
体調が変わるたびに受診や入院が必要になれば、そのたびに移動の負担が生じます。医療依存度の高い方にとって、移動そのものが身体への負担です。訪問診療の医師と日常的に情報を共有できる体制が、入院を経ずに療養を続けることを可能にしました。
第49日には仙骨部に褥瘡(床ずれ)が生じましたが、医師の確認のもと処置と体位変換・除圧を継続し、第60日には治癒傾向に至っています。
体調が変わっても、暮らしは続く
体調がすぐれない日が続くなかでも、お風呂は16日間ご利用いただきました。
入居当初、A氏は「さみしい」とおっしゃることがありました。そのたびにお話を伺い、夜は「電気をつけたままにしてほしい」とのご希望のとおりに照明を残し、テレビのリモコンを手の届く位置に置きました。
施設のお茶がお口に合わないとうかがった際には、成年後見人の方に緑茶のご用意をお願いしました。お食事が進まない時期にも、お好きだった羊羹や水ようかんはよく召し上がっています。
第44日、「外の空気を吸いたい」とおっしゃったため、短い時間ですが一緒にお散歩に出かけました。「空気がおいしい」とお話しになったことが記録に残っています。
ご本人の言葉を、職員全員で共有する
第25日、看護師がA氏に、体調が急に変わったときにどうしてほしいかをお尋ねしました。A氏は「しんどくなったら病院に行く。頑張りたいと思ってる」とお答えになりました。
私たちはこの言葉を記録に残し、全職員が閲覧できる状態で共有しました。以後の観察は、このご意向を前提に行っています。
第64日の未明、深夜の見回りの際にはお話をされていましたが、その後まもなく静かに息を引き取られました。主治医に来ていただき、看護師2名で身支度を整えさせていただきました。
この事例からお伝えしたいこと
1. 医療的ケアが必要でも、生活の場は変えずにいられます
膀胱留置カテーテルの管理、心不全の内服調整、褥瘡の処置。これらはいずれも、看護職員が配置された看多機で対応可能な範囲です。体調が変化しても、住まいを移すことなく、同じ職員による看護と介護を受け続けることができます。
2. ご家族がいらっしゃらなくても、お受けできます
A氏には身寄りがなく、成年後見人が意思決定を支援しておられました。当施設では、成年後見制度をご利用の方、身元保証人を立てることが難しい方についても、ご相談をお受けしています。
3. ご本人の希望を、記録に残して共有します
どのように過ごしたいか、体調が変わったときにどうしてほしいか。こうした対話(ACP/人生会議)を、状態が変わるたびにご一緒に重ねてまいります。
医療機関のご担当者様へ
ご紹介にあたっては、機能回復を主目的とするご紹介か、療養継続・看取りの可能性を含むご紹介かについて、率直な見立てをお聞かせいただけますと幸いです。入居前カンファレンスの段階からご本人の意向確認に着手でき、より質の高い支援につながります。当施設はいずれの場合もお受けできる体制を整えております。
本事例では、ご相談から入居まで26日でした。空床状況や受け入れ可否については、お電話にてお問い合わせください。
よくあるご質問
| 医療的ケアが必要でも入居できますか。 | 看護職員が配置されているため、膀胱留置カテーテルの管理、胃ろう、インスリン注射、褥瘡処置、点滴などに対応しています。ご状態により対応可否が異なりますので、まずはご相談ください。 |
|---|---|
| 身寄りがなくても利用できますか。 | ご利用いただけます。成年後見制度をご利用の方、身元保証人を立てることが難しい方についてもご相談をお受けしています。 |
| 看取りまで対応してもらえますか。 | 訪問診療の医師と連携し、施設でのお看取りに対応しています。ご本人・ご家族・後見人の方のご意向を伺いながら方針を決めてまいります。 |
| 相談してからどのくらいで入居できますか。 | 空床状況によります。本記事の事例ではご相談から26日で入居に至りました。 |
| 看多機と特別養護老人ホームの違いは何ですか。 | 看多機は「通い」「訪問」「泊まり」を組み合わせて利用できる在宅サービスです。ご自宅で過ごしながら必要に応じて宿泊する使い方も、継続的に宿泊する使い方も可能です。 |
本記事について
本記事は、当施設における一事例の記録に基づく報告です。記載内容は個々の利用者様の状態や経過を保証するものではありません。氏名・生年月日・住所その他の個人が特定される情報はすべて削除し、成年後見受任法人の同意を得たうえで公開しています。共通の倫理方針は研究・実践報告に記載しています。
発行:有限会社たいよう 看多機たいよう堺東
最終更新:2026年9月2日